植物界のキーパーソンにスポットを当ててインタビューする企画、第11回目。
今回は以前より植物の仕入れや書籍「珍奇植物 ビザールプランツと生きる」で撮影の協力をいただいたCACTUS GREEN代表の沼尾嘉哉さんにお話を伺いました。近日中にリリース予定の新たな楽鉢、RAKUも同氏と共同で制作しておりますのでそちらの開発秘話などもご紹介できればと思います。
栃木県にてエキゾチックプランツの輸入、輸出、生産を行うプロの生産者。近年はマダガスカル植物の輸入、特にCITES付随する植物を附属書付きで輸入されていることで話題になりました。サボテンのロフォフォラの実生の第一人者でもある。
CACTUS GREEN
ーいつ頃から今の商売を始めたんですか?
現在のカタチになってから10年くらいたちますね、今の珍奇植物のブームが始まる少し以前から現在のCACTUS GREENを立ち上げた感じになります。
それ以前はネット系の会社でエンジニアとして働いていました。
ーそんな中、園芸の世界に。何かきっかけがあったんでですか?
勤務していた会社が東京の恵比寿にあったのですがその近くに羽兼さんが経営している植物のお店があったんです。
もともと植物は好きだったのですが、そこで初めてしっかりと栽培されている植物が売られている場面に出会って「あぁ、これは素晴らしいな」と。
ーあの羽兼さんが!?初めて聞きました。
20年くらい前かなぁ、先駆けだったんですよ、羽兼さん早すぎましたね 笑。
TOKYさんができる以前にすでに陶器の鉢に自分で育てられたロフォフォラなどを植え込んで販売していましたね。
そこで鉢と植物なんかをよく買っていて(主にサボテン)自分で育ててみるわけだけど、全然上手くいかなくて枯らしてたんですよね。
室内でだめで、じゃあベランダで、みたいなことをやってたんだけどそれでもやっぱり綺麗に育たなくて。
で、上手く育てたいからサボテンの会みたいな所に出入りするようになって…そこがきっかけなのかなぁ。
ハウスの休憩スペースにはAV機器が完備されており氏の好きなフィギアなどが飾られていた。
ー初めから上手い人なんていないですよね、安心しました。
そうそう。
で、その頃、IT系の会社の激務で精神的にかなりダメージが大きくなっていて 笑。
元々植物が好きだったし癒やされるから「植物仕事にしたいな」って思い出したのもこの頃。
で、準備の為にサボテンの会に出入りし始めて、そこで話しを聞いてると「綺麗なサボテンを育てるには温室が必要なんだな」と初めて気がついたり 笑。
ー今となっては考えられないですね。
そこで先輩たちに色々なことを教えてもらいましたね。
面白いのが先輩方に色々な趣味家のところに連れて行ってもらって。
ある方の温室に連れて行ってもらって「どこかで見たことあるな」って思ってたらそれがあの羽兼さんだったってのに後で気がついたり 笑。
ーで、そこから本格的な商売に変わっていったと。
当時はサボテンのブームの一時代が終わって、業界自体も落ち着いていました。
そんな中で趣味家さんの所に通ってサボテンを仕入れしたり、自分で実生を始めていました。
その後に起こる今の爆発的なブームとのちょうど狭間で始めることができたので幸運だったかもしれませんね。
整然と並ぶマダガスカル植物、撮影時は植物が出荷されれ在庫が少ない状況だったそうです、十分多かったですが。
ー生産をする傍らで植物の輸入も始めたんですか?。
そうですね、植物輸入も徐々に開始しました。
やはり輸入植物というのは会社を運営していく中で今も柱になっていますから。
ただ、そこは単純な輸入ではなくて、早い段階で物々交換が非常に重要だなということに気がついたんですね。
例えばマダガスカル植物を輸入する際に、現地のナーセリーの園主がサボテンを欲しがっていたらそれを探してきて送ってあげる。
それを繰り返しているとお金のやりとりだけでは生まれない信用という大きなアイテムが手にできるんですね。
なので自然と植物の輸出もできるようになっていくんです、CITESが必要な植物は当然それを取得して送りますし。
そういうことを地道に続けることで他の人では手にすることが出来ないような植物を手にできるようになったと思います。
ー沼尾さんの理想とする植物輸入輸出においてはそういうコミュニティを作ることが重要なんですね。
そう、それが最も大事です。
先日もカリフォルニアの有名なナーセリーの園主から連絡があって「こういう植物を探しているから探してくれないか?」と言われて。
調べてみたら見つかったので「あぁ、これ送れるな」となるわけで。
海外のそういう植物フリークみたいな人たちはかなり崇高な考え方を持っていて。
お金でやってる部分は勿論あるけれどお金よりも大事なものがあることは彼らのほうがずっと意識が強いです。
そういうことにもいち早く気づいて彼らの思いを実現してあげることで信頼関係が生まれるんです。
オペルクリカリア・パキプスの盆栽株、扁平になるように作り込まれていました。
ー物々交換は人間の古くからあるコミニケーションですもんね。
コミニティができて、信用が生まれて、それが広がって、素晴らしいカタチとして返ってくる。
その根っこには自分も含めて、皆植物が好きという気持ちがあるから純粋にこの仕事を楽しめている部分でもありますね。
ーそれらのことって真似したらできそうな気もするんだけどどうなんでしょ?。
今は難しいんじゃないのかな、結局それを始める時に彼らが欲するような植物をどれだけ持っているかってことだと思うんです。
僕が始めたときはブームとブームの狭間だったので植物を集めやすかった。
ブームに関係なく植物を育てている人たちから、それこそ名品と呼ばれるような植物を必死に買い集めましたしそれが可能だったちょうど良い時代だったということですね。
ー輸入の話で、CACTUS GREENさんはCITES1の植物を附属書つきで輸入することで知られていますよね?。
それも先程の話と同じで、培ってきた人間関係があって初めてできたことです。
細かい技術的な話は企業秘密なのでできませんがそれなりに時間もかかります。
そして先でも言った、所有している植物が重要になってきますので真似しようと思ってもできないと思います。
CACTUS GREENさんは名前の通りやはりサボテンに重きを置いているんですよね?。
特にロフォフォラの実生はかなり力を入れています。
それこそInstagramなどで海外の著名な趣味家がアップしているロフォフォラを見るとそのほとんどが自分が実生したり仕入れたものですね 笑。
ーまぁそんなこんなで唐突にTOKYと鉢を作ることになりましたね。
TOKYさんの鉢も、今流行っているデザイン性の強い鉢も格好良くて好きなのですが、例えばうちの温室に置いた時良いって思いにくいんですよね
むしろ温室にマッチするような、それこそ楽鉢みたいにシンプルで古典的なものの方が映えるなって。
あとは埼玉カクタスクラブの長谷川さんに「楽鉢みたいのでもっと丈夫なの欲しい」って言われたのもあってTOKYさんに相談してみました。
ーようやく完成しましたが、ここに至るまでは本当に時間かかりましたね。
大変だったけど本当に良い鉢になったと思う。
こういう温室に並べて整然と自然に見えるって大事だと思うんですよね。
意匠的に、造形的に凝れは凝るほど不自然になると思うんです。
シンプルだけどRやエッジを突き詰めて誰も気が付かないけど結果として美しいって造形に惹かれます。
今回はそういう鉢に対する思いなど、TOKYさんとならではのプロダクトができたと思っていて、とても満足しています。
ー最後に何か伝えたいことありますか?
歴史は繰り返しているってことはここ数年に始めた人たちにも知っておいてほしいなと思います。
その羽兼さんがお店やってたときだって今で言う黒王丸なんかのコピアポアがブームになってたことありましたし。
僕は2回経験してるんですよね、植物ブーム。
でも今回のブームはネットやSNSなんかの影響で広がるスピードが早いですね、そして長く続いているなと思います。
このブームが終わったとしてもまた時代は繰り返しますから、それと関係なく植物たちを大事にしてあげてほしいですね。
雑記
沼尾さんと初めて連絡をとったのはInstgramで植物の仕入れしたいなと思いDMしたことが始まりでした。
理屈っぽくて面倒くさい人だなと思ったのはここだけの話です(頭がいいとも言えるけど)
ただ、二度ブームを見て思うことがあるのだろうし、プロ意識が高いからこそだなと思っています。
あとはIT系の出身ということもあってか思考は極めて理論的かつ合理的な人だなと感じました。
扱っているのは風変わりな植物で農家的な見え方がしますが一つの健全な企業としての考えを貫く姿に共感を覚えています。
共同開発した鉢に関しても今カッコいいとか流行っているというようなモノ、と言う視点ではなくまだ需要の無いところに関してリーチしようとする思考もTOKYと近いなと思いました。
ハイレベルな植物に興味がある人は是非CACTUS GREENさんに連絡をとってみてください。
RAKUの最初のリリースは5号のボウルポットと3.5号のシリンダーポットとなります。